「こ、ここ、こんなところで会うのも珍しいね」

そう言って狼狽えた声を上げたのはパーチェだ。

「お、お腹が空いて何かつまみ食いに来たわけじゃないからね」

聞かれてもいないのにそんなことを口走る彼に、私は苦笑した。

「お腹、空いてるんでしょう?」

私の言葉に、彼は驚いたように目を丸める。

「だから、お腹空いてるんでしょう?」

もう一度指摘すると、彼は「何でわかったの?」と本当に驚いたように尋ねた。 彼のことは心を読まなくても大抵わかる。 読んでも『ラザニア!』と『お腹すいた』がほとんどの確率で見えてくるからだ。

「ティラミスでよければちょうど作ったのがあるけど」

そう告げると、彼は目を輝かせて「ホント?」と尋ねる。

「こんなことで嘘言わないわ」
「だよね。もう、お嬢、だいすきー!」

ガバッと両手広げて抱きつこうとするパーチェからヒラリと身をかわすと、私は冷蔵庫を開けた。





Θ ドルチェ Θ





以前何度かここでパーチェに出くわしたことがあった。 きっとお腹が空いているんだろうと思ったけれど、その時は何も持っていなくて、 だから、今日は暇を見つけてドルチェを作ったかいがあったというものだ。

「やっぱり、お嬢は料理がうまいな」

私の作ったティラミスを口に運びながら、パーチェはそんなことを告げる。 それがなんだかくすぐったくて、

「こんなの、本を見れば誰だってパパッと作れるわ」

と答えると、

「でも、おれはパパッと作れない」

隣でえへんとパーチェは胸を張った。

「……えばることじゃないわ」

どうしてそこで、彼はふんぞり返ったのだろうと、そんな疑問を感じながらそう告げると、

「だよねー」

にっこりと笑みを浮かべて同意するパーチェ。

「でもおれ、パパッとお嬢みたいに作れなくてもいいんだ」
「どうして?」

食いしん坊のパーチェのことだ。 自分でパッと作ってしまえた方が、好きな時に好きなだけ食べられていいと思っていた。

「えへへ。可愛いお嫁さんをもらうから」

その言葉に、スプーンが手から落ちた。 自分で思っていた以上に彼の『お嫁さん』という単語に動揺してしまったらしい。

「あ、間違えた」

けれど私の動揺に気づかないまま、

「可愛いお嬢を、お嫁さんにもらうから」

なんてパーチェはあっさり告げて私を見つめるものだから、

「お、落としたから洗ってくる」

慌ててスプーンを拾うと、私は彼から逃げるように席を立った。 きっと彼はいつでもドルチェが食べたいだけだと、そう自分自身に言い聞かせているのに、 私の顔は期待するように真っ赤に染まってしまった。




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天然男の発言にいちいちヒィヒィさせられた! (dolce:甘い)