目の前の男は良く食べる。

「んぐんぐ……、やっぱりここのラ・ザーニアは最高だね」

そう言って食べているラザニアは、すでに30皿を越えた。





Θ ラ・ザーニア!! Θ





「お嬢は食べないの?」

フォークを口に運びながら、私へと視線を送る。 ここが今日初めて入ったお店で、目の前の皿が 1食目なら喜んで食べただろう。 けれど、彼に付き合ってこの店は 4件目だ。私自身、すでに 3皿完食している。

「見てるだけで満腹」

我ながら良く付き合ったものだ。 そう思いながら答えると、

「勿体ない!!」

パーチェは口に詰め込んだラザニアを飲み込んで告げた。

「せっかくこんなにうまいのに!」
「それ、どこの店のラザニアを食べても言ってたわ」

現に前の二件でも「最高だ」と告げていた。 そう指摘すると

「そうだっけ?」

と、目じりを下げて笑う。 どうも最近、私はパーチェのこの顔に弱い。 ニコッと微笑みかけられ、心臓が驚いたように跳ね上がってしまう。

「でもここのがおいしいのはホントだから、お嬢も食べてみてよ。はい、あーん」

笑みを浮かべたまま、一口分をすくってフォークを差し出すパーチェ。 無視するわけにもいかず、恐る恐る口を開いた。 既に満腹だったけれど、一口ぐらいならと口の中に入れたそれは、 パーチェが称賛するだけあって美味しかった。

「美味しい……」

思わずほころんだ顔でそう告げると、

「だろ?」

ニッコリとパーチェは返した。続けて、

「ラ・ザーニアはうまいし、お嬢の可愛い顔が見れて、おれ、幸せ!」

なんて告げるものだから、むせてしまった。 けれど、

「あーあー…、お嬢。そんなにがっついて食べるから……」

パーチェは私がむせた理由に気づきもしないで、ニコニコとラザニアを食べている。 ちょっとだけムカついて回し蹴りをすると、

「危なッ」

ひょいを皿をもってパーチェは避けた。 もう、何度も何度も店の中で回し蹴りをしていたから、見切られてしまったようだ。

「ふふ。いつまでも気絶するおれじゃカッコ悪いでしょ?」

そう言ってにっこり笑顔でラザニアをほおばる姿に、 思わずまた顔が熱くなってしまうのを誤魔化すように、私はゴクゴクと水を飲んだ。





ようやくパーチェが満足して店を出たのは更に20皿食べた後で、 ぶらぶらと巡回を始めたパーチェは、

「おれ、気づいたんだけど……」

と言って足を止めた。

「今日食べたラ・ザーニアがどれも最高だった理由って……、お嬢がいたからじゃないかな?」

言っている意味が分からなくて首を傾げる私をそのままに、

「お嬢が傍にいてくれるからだよ。絶対そうだ!」

パーチェは一人で納得を始めた。

「だって、言うだろ? 好きな人と一緒に食べるものはなんでもうまいって」
「す、好き?!」

驚く私に気づかないのか、

「よーし。おれの推測が当たってるか検証しに行こう、お嬢!」

パーチェは私の手を握りしめると、次の店へと走りだした。




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主人の口調が分かりません! まだ 5月だよ(笑)