千聖君の補習をしていると、窓から一枚の紙飛行機が舞い込んできた。
拾い上げるとそれは今日配った夏休みの課題のプリントだった。
「だっ、誰がこんなことを……っ!」
呟いた私の目の前で、千聖君はため息をついた。
「天だ」
「え?」
「あいつは昨日も紙飛行機大会を一人で行っていた」
「なっ……」
なんてアホなことを! という言葉は何とか呑み込んだ。
それにしても一人で紙飛行機大会なんてして楽しいのだろうか。
Θ
君へのラブレター Θ
「はぁ、天十郎君の考えてることが全然分からないわ」
思わず呟いた私の目の前で、千聖君が笑った気配がした。
「どうかしたの?」
「いや、あいつほど分かりやすい奴はいない」
それは天十郎君と千聖君の付き合いが長いから言えることなんじゃないだろうか。
そう思った私に、千聖君は最初に広げた紙飛行機を机に広げた。
「裏を見てみろ」
「裏……?」
言われるままにプリントをひっくり返した。
そこには天十郎君の文字で、『お前は俺ヨメ会講師だろうが!
だったら千の相手なんかしてねーで、俺様の相手をしやがれ!』と書かれていた。
「……これ」
プリントと千聖君を交互に見ながら口を開く私に、千聖君は笑った。
「天は気づいてないが、あんたを相当気に入っている」
その言葉に首傾げる私に、千聖君は笑う。
「俺が言うのは卑怯だと思うが、あんたも相当にぶそうだからな」
そう口にして、
「おんしが他の男と二人きりじゅうのが嫌なんろう」
と告げた。
「え? ちょっと、早口でよく聞き取れなかったんだけど……」
聞き返した私に向けて紙飛行機を手渡すと、
「あとは天に聞け。今日はもう、帰る」
そう言って鞄を持って出て行ってしまった。
取り残された私は紙飛行機の文字と千聖君の言葉をぐるぐると頭の中で考えていたのだけれど、
「紙飛行機の意味だけ考えるなら嫉妬…したってこと? まさか、天十郎君が?」
ありえないと思いながらも私の胸は期待するようにドキドキと高鳴り始め、
鏡を見なくてもきっと顔まで真っ赤なんだろうと思った。
» Back
天→真奈美と言いつつ天が出てこない(笑)