「ごめんね、遅くなって」
教室に駆け込むと、面倒くさそうに頬杖をついて不破君は席についていた。
補習を始めた頃は「面倒だ」と言って隙あらば逃げ出していた彼が、
こうして私を待っててくれるだけでも嬉しくなってしまう。
「さてと。そうしたら今日は昨日の続きで……」
そう言って教科書を広げたものの不破君が教科書を広げる気配はなくて、
「……不破…君?」
そっと名を呼んでみると、「ぐぅ」といういびきが返ってきたものだから、
「起・き・な・さーい!!」
拳を握り締めて叫んだ。
Θ
夢のロンド Θ
「……まったく」
ピクリとも動かない不破君に、諦めのように溜息を漏らすと机から身を乗り出し、
マジマジとその寝顔を見つめる。相変わらず瞼にはクッキリと目が描かれていた。
「バレバレなのにわざわざ描かなくても……」
そう苦笑して、指で触れてみる。
油性マジックだったらどうしようかと思ったけれど、そうではなさそうだ。
「それなら風門寺先生にさっき貰った試供品のリムバーで落ちるかな」
補習を開始するにも瞼に目が描かれた状態では対応に困ってしまう。
だったら先にらくがきを落としてから起こそうと思ったのだ。
取り出したリムバーを指先に取り出し、頬に手を添えグリグリと瞼のらくがきにすりこむ。
思いのほかスルリと落ちたそれに安堵の息を漏らすと、予想外の顔の近さにハッとしてしまった。
「む、夢中で気付かなかった……」
そう呟きながらも、視線をそらすことが出来なくなっていた。
普段喋っているときも不破君の方が背が高いため、こんな間近で顔を見る機会なんてなかったのだ。
意外と長い睫毛と整った顔立ちは、女の子たちが騒ぐのも納得してしまう。
「黙ってればかっこいいのよね、ほんとに……」
そう呟いた瞬間、
「……人の顔を凝視して、何がしたいんだ?」
目の前の顔が急に目を開けるものだから、
「〜〜〜ッ!」
声にならない声を上げてしまった。
慌てて両手を放して身を引くと、勢い余って椅子にぶつかりそのまま着席してしまう。
そんな私に不破君は口元に笑みを浮かべたまま尋ねた。
「顔が赤いがどうした?」
「な、なんでもありません!」
口から出た言葉は自分で思っている以上に大きくて、不破君は微かに目を細めた。
そんな姿に
「こ、こんなときに起きなくてもいいのに」
思わずそんなことを愚痴ると、
「起きろとゆうたのはお前だろ」
と不破君が告げるものだから、私はあんぐりと口を開けたまま固まってしまった。
「なんだ? 鳩が銃弾を食らったような顔をして」
「だ、だだ、だって……え? 嘘……」
この前訂正した慣用句すら間違えたまま覚えている不破君に泣きたくなりながらも、
それ以上に私は動揺していた。
「不破君……、いつから起きていたの?」
その言葉に彼は「さぁな?」と笑うから私はますます顔を赤らめ、
結局この日の補習も私の予定を大幅に遅れてしまうのだった。
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自分を異性として見てくれることをふわふわが喜んでるといい(これじゃムッツリか)