毎年のようにメンバー全員分のチョコレートを用意して私はライブハウスに向かった。
瞬君からパスを貰っている私は、関係者用の入り口から入れるのだが、
それでも会場前にはたくさんの女の子がいて専用口に行くのも一苦労だった。
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笑顔の懺悔 Θ
「はーい、みんな、チョコレートよ」
そう言って部屋に入ると祐次君しかいなかった。
「あれ? ほかのみんなは……?」
「チョコを受け取りに。貰ってあげるのも仕事だからね」
ふふんと笑う彼は行かなくてもいいのかと尋ねる。すると、
「オレはもうもらってきたの。ほら、見てよこの山」
祐次君の指差した先にはチョコレートの山が出来ていた。
「……なら私のチョコはいらないわよね。義理だし」
「何言ってるの、悠里さん。本命の山より悠里さんからの義理のが嬉しいって」
ファンの子が聞いたら泣くようなセリフを彼は言ってのけた。
「あ〜ぁ、でもいいなぁ」
チョコレートの山を見ながら私は呟いた。
「ん?」
「だって。みんなのチョコ選んでるとき、私も食べたくなっちゃったんだもん」
一応自分用に一つ買った。
それでも、この時期のチョコレートはどれも可愛く作られていてみんな食べたくなってしまう。
「なーんだ。それなら早く言ってよ」
「へ?」
祐次君はニコニコと笑うとチョコを一つ渡しに差し出した。
「は? ちょっ…、な、何考えてるのよ」
「え?」
ファンの子からのプレゼントを他人に渡すなんてどういう神経の持ち主なんだと私は驚いてしまった。
これがお買い得用のファミリーパックなら一つ貰うところだが、
どこからどうみても綺麗にラッピングされた本命チョコだ。
「あのね。チョコは食べたいけど、気持ちは受け取れないわ」
「……これが本命チョコだから?」
「そう。わかってるならそんなことしないで」
「……そっか。……振られちゃったなー」
寂しそうに笑った祐次君の言葉に私はポカンとした。
「…………ちょっと待って。そのチョコ……誰の?」
「オレのだけど?」
サラリと言われた言葉に、おずおずと尋ねる。
「祐次君がファンの子から貰ったチョコってことよね」
「ひどいなー、悠里さん。いくらオレでもそんなひどいことしないよ」
ふふっと笑うと彼は言葉を続けた。
「これは、オレが悠里さんのためを思って選んだチョコ。今年は逆チョコが流行ってるみたいだから」
「…………え?」
つまり、祐次君がファンの気持ちを踏みにじったわけでもなく、純粋に私にチョコをくれようとしていたのに、
私はそんな祐次君の気持ちも知らずに「そんなことしないで」と言ってしまったのだ。
「ご、ごごご、ごめんなさいっ。あの、私、なんだかすごく失礼な勘違いを……」
思わず真っ赤になって謝罪する私を祐次君はにっこりと微笑んで見つめていた。
その手がゆっくりと伸びて私の髪に触れ、思わず顔を上げると優しい眼差しにからめとられた。
「(……あれ? 祐次君が私にチョコって……本命って言ってなかった? それってつまり……えぇーっ!?)」
導き出された答えは、現状からするとすごく危険なように思えてきた。
他のメンバーはいない。私と祐次君の二人きり。祐次君は私のことが好き……(らしい)。
でも私には瞬君がいる。……だ、駄目よ、と思っているのに、祐次君の眼差しから逃れることは出来なくて……
「ぷっ……ふふっ。あーもう駄目。悠里さん、可愛すぎる」
真っ赤な顔で困惑した私に、祐次君は我慢できないと言った感じで笑い転げた。
「これは、ヴィスコンティみんなからのチョコだよ」
「…………え?」
「オレが一番ヒマしてたから、チョコ選んだの」
つまり私は、祐次君に騙されたということだろうか。あんなにドキドキしたのに!
「でも悠里さんがこんなに可愛い反応をしてくれるなら、個人的にチョコ用意すればよかったなぁ」
にっこりと笑う祐次君は、どこまで本気でどこからが冗談か分からなかった。
「来年は用意するからさ、受け取ってよ。ねっ」
そんなふうに笑顔で言われては断ることなんて出来なくて、
小さく頷いた私を祐次君は子供のように喜んで抱きしめるものだから、
一瞬だけ瞬君の存在を忘れてしまっていた。
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(本気か分からない祐次の言動が気になる先生)