Θ 君が持っている星屑 Θ
「南先生、休憩ですか?」
ふわりと優しい声をかけてくれたのは衣笠先生。
B6のメンバーが卒業した後も、私のことを何かと助けてくれる。
「はい。清春君が今日も練習見てくれるみたいで、職員室で待ち合わせれなんです」
「ふふ。でしたら先ほどケーキをいただいたので一緒に食べませんか?」
衣笠先生はそう言ってケーキの入った箱を持ち上げた。私はすぐに微笑み返して
「あ、じゃぁ私、お茶入れてきますね」
「すみません、お願いします」
と言うわけで、私と衣笠先生は一緒にお茶をすることになった。
「美味しいですね、これ」
「そう言ってもらえると嬉しいですよ」
衣笠先生はそう言って綺麗に笑った。
もともと美形なのだから無意識に視線が行ってしまうのだけれど、
笑うと更にカッコ良くて目を奪われてしまう。
「おや、南先生。唇にクリームが……」
「え? どこですか?」
そう言って口元に伸ばした手を衣笠先生はそっと握り締めた。
「き…衣笠……先生?」
「いい子ですから、動かないで」
顔を寄せて囁いた衣笠先生は、そのままペロリと私の口元を舐めた。>
驚いて真っ赤になった私を目の前に衣笠先生は微笑むと、
「悠里先生はホントに可愛らしいですね……ねぇ清春くん、君もそう思うでしょう?」
と声をかけた。驚いて衣笠先生の視線を追うと、そこには私同様に驚いた顔の清春君がいた。
「オバケ……テメー……悠里に何した」
「なにって……、可愛らしかったのでキスを」
シレッと答えた衣笠先生の答えに、私は慌てて口を開いた。
「ち、違うのよ、清春君。その、私がクリームつけちゃってたから衣笠先生は取って下さって」
「おやおや。悠里先生は僕の言葉信じてくれてたんですね」
にっこりと言われて私はきょとんと見つめ返してしまう。
含みのある言い方が気になってしまったのだ。
「子供じゃないんですから、悠里先生が唇にクリームつけてるなんてあるわけないじゃないですか」
「だっ……騙したんですか?!」
怒りというよりも恥かしさで顔が真っ赤になった。
卒業と同時に清春君に想いを告げられ、私と清春君は恋人同士であるというのに、
そんな彼の目の前で、唇の横を舐めてられしまったのだ。
「っつーか、オバケェ。テメーいつのまに悠里のこと名前で呼んでやがんだよ!」
「いつのまにって……ふふ、秘密です」
そう言えば、ケーキの誘いを受けた時は確かに苗字で呼んでいたはずだ。
「それに、君がそう呼ぶから、僕もちょっと対抗しようかな、なんて」
ふふっと笑って衣笠先生は私の髪に人差し指を絡めた。
「君よりは僕の方が身近にいますから……ねぇ」
「テッ……テメー」
完全に怒った清春君がこちらに近づいてくるより早く、衣笠先生は私を抱きしめる。
突然の衣笠先生の行動理解できずされるがままだ。
「悠里先生、僕は去年からずっと貴女を想っていたんですよ」
囁かれた言葉は私を驚かせてばかりで、
「貴女の幸せを願うだけでよかったのに、よりにもよって清春くんを選ぶなんて……納得できません」
「なンだとテメー、悠里を返しやがれ!」
辿り着いた清春君は、私の腕を引っ張ると自分の腕の中におさめた。
何度もこの腕に抱きしめられたけれど、いまだに慣れることはない。
「清春くん相手なら、奪える自信があるんですが」
そう告げる衣笠先生の言葉は、出会った頃なら両手を広げて喜んでしまうぐらい嬉しかったはずだ。
けれど今は、私は清春君の良さを知っている。
この腕が、いつでも私を引っ張ってくれて、いつでも私を守ってくれたことを知っている。
「ブァーッカ! コイツはオレ様がいねーと困るンだっつーの!」
「そう言って、一番望んでいるのは君自身でしょう?」
「そうだよ、悪ィのかよ!」
「いえいえ。でも肝心の悠里先生の気持ちはどうなのかと思いまして」
クスリと笑ってみせた衣笠先生の言葉に、清春君はジッと私を見つめる。
その目が求めているものを理解して、私は苦笑いを浮かべた。
「ンなもん、聞かなくてもコイツがオレ様の側にいるっつーのが答えなんだよ!」
衣笠先生にそう宣言すると、清春君は抱きしめたままの私にキスをした。
何度も何度も、角度を変えて行うそれは衣笠先生への挑戦で、
「僕は南先生の趣味の悪さが、理解できません」
諦めたようにそう言って踵を返した衣笠先生を見て私が唇を離すと、
清春君は逃がさないとばかりに再び口付けた。
何度も、何度も行うそれは、傍にいられない寂しさを補うもので、
それは私も同じだったから、今日のバスケ部の練習は少し遅れて行く事にした。
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(リクエスト:生徒vs先生ということでキヨと衣笠先生にしてみました)