Θ 愛があれば大丈夫 Θ





良く晴れた日の午後。近くのグラウンドで、一君のサッカーの試合が行われる。 一君たちは午前中から軽く流し練習をしているらしいので、 私は試合前に元気をつけてもらおうと、お弁当を持ってグラウンドに向かった。

「一君!!」

グラウンドでボールを追う彼の姿を見つけて手を振る。 彼も私に気付くと皆から離れて駆け寄ってきた。

「どーしたんだよ、悠里。試合は午後からだぜ?」
「もう。知ってるわよ」

一君は学生時代から私をおっちょこちょい扱いをする。 今日だってきっと時間を間違えたと思ったに違いない。

「なんだ。じゃ、俺の融資を見に来たのか?」
「……一君。融資なんていつの間に始めたの?」
「猫にゃんの貸し出しならいつでもできるぜ」
「もう。猫にゃんは要りません」

一君のことだ。頼んだらきっとどこからともなく猫を出してくるのだろう。 そんなことを考えながら、また正しい答えを教え忘れてしまったとようやく気付くがもう遅い。 一君の頭の中は猫にゃんでいっぱいだ。

「…ま、もう担任じゃないしね」
「あ?」
「ううん。なんでもない。それよりも、はい」

ニッコリと笑って手に持ったバスケットを見せると、一君の顔が固まった。



「もう、なんて顔してるの。これから試合でしょ? これ食べて頑張って」
「あ、あはは。食ったら頑張れないっつーかなんつーか……」

バスケットの中味は、早起きして作ったサンドイッチだ。 これならば以前のような文句も出まいと私は胸を張っていたのだが。

「……なんでパンから真っ黒いモンがはみ出てんだ?」
「ちょっ、失礼ね。ちょっと玉子が焦げちゃっただけじゃない」
「ちょっと? ちょっとどころじゃないだろ。死んじまうぜ」
「もう。そんなこと言うなら一君にはあげません。ほかの子にあげちゃうんだから」

言ってバスケットを奪い取ると、一君のチームメイトの方を向く。

「ま、まま、待て待て。それはありがたいような迷惑なような……とにかく絶対駄目だ」
「なんでよ」
「全員食中毒起こして試合になんないだろ」
「そんなことないもの」

毎度言うようだけれど味見はした。ここに来る前に食べて、今も私はピンピンしている。 そう一君に告げると、彼は小さく「すげぇな」と漏らす。

「…とにかくだ。いくら最強兵器でも、他の男に食わすのは絶対駄目だ」

その言い方は引っかかるが、ヤキモチを妬いてくれたようで少し嬉しくなる。

「じゃ、一君がどーんと食べてよ。ねっ、ねっ」
「……あ、あぁ」

観念して一君はその真っ黒い玉子の詰まったサンドイッチを口に運ぶ。

「…………」

複雑そうな表情で食べるものだから、不安になってきた。 そのままジッと一君を見ていると彼は真っ赤な顔で視線を逸らす。

「…っ、そんなに見られたら、食えないだろ?」
「だって。一君優しいから不味くても不味いって言えないんじゃないかって……」

そう告げると一君は大きな手で私の頭を撫でる。 初めて担任になった頃は喧嘩ばかりしていて怖いと思ったその手も、今はドキドキする。

「んなことないぜ? なんなら、確かめるか?」

言ってニヤリと笑った一君はそのまま顔を近づける。 目を閉じてそれを受け入れると、ちょっと焦げた玉子の味がした。



「ま。別に毎回弁当なんか作ってこなくても、悠里のキス一つで俺はやる気になるんだけどな」

そう笑う一君に

「それはつまり、私のお弁当は食べたくないってこと?」

とわざと怒ったようにたずねると、彼は「ヤベッ」と漏らして慌てふためく。 そんな様子に私はクスリと笑みを漏らすと、背伸びして再びキスをした。



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(一君はできたらハジメくんと書きたい。一(名前)なのかー(長音)なのか分かりづらいという;)