あれ以来、妙に気恥ずかしくてゲーセンには通っていない。 その間にも季節は移り変わって、現在二月。 街はバレンタイン目前の、甘いムードを漂わせていた。

「お…お世話になってるし、別に変じゃないよね」

自分にそう言い聞かせると、私はゲームセンターへと足を運んだ。





Θ 恋のゲーム Θ





「あ」
「こ、こんにちは」

彼はビックリした顔をして、私を見て固まった。

「もう、来ねーかと思った」
「え? 何で」
「オレが変なこと言ったから」
「変な…こと……?」
「別に。今日は何してーの?」
「対戦、しようと思いまして」

久しぶり会話に、微妙に敬語が混じってしまった。

「は? 本気? だってあんた、格ゲーすげぇ弱かったじゃん」
「と、特訓してたんですっ」

そう答えると彼は笑った。

「ふーん。じゃ、座んなよ」
「あ…うん」

対戦ゲームは画面が向かい合った二台で戦う。 だから、彼の座った向かいのゲーム機に座った頃には彼の顔が見えなくなって、少し落ちつた。 チャリンとコインを入れて、私はキャラクターを選びながら口を開く。



「あの…ね。実はチョコレートを持ってきたんだけど」
「マジで?」
「うん。でも、ただあげるのもつまんないから、勝ったらあげるよ」
「……は?」

ビックリしたのか横から顔を出す彼が見えた。 けれど、私はこの真っ赤な顔を見せられず、気づかないフリして続けた。

「だから、店員さんが私に勝ったら、チョコあげます」
「……トラ」
「え?」
「店員さんじゃなくて、トラだから、オレ」

教えてもらった店員さんの名前を、心の中で反芻する。 なんだか気恥ずかしくて、でも嬉しくて。

「んじゃ、負けねーからな」

そう告げた彼に私は笑う。ゲームの特訓なんてしていない。 このチョコははじめから彼―トラにあげるつもりだったんだから。

「私だって、負けないもん」

そう、ゲームの勝負は負ける気満々だけれど恋の勝負は始まったばかりなのだから。




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続編の希望に答えたらこうなった