「あんた、ウチによく来る割に、格闘ゲームやんないよね」
「だって難しそうだし」

以前、公園で見かけてから、ゲームセンターの店員さんとは結構喋るようになった。

「ふーん。ま、たまにはやってみれば?」
「そう…だね。結構ストレス解消とか言うし」

店員さんにすすめられるまま、私はいつもとは別のゲーム機の前に座る。 チャリンとコインを入れると、左手でスティックを握り締め、ガチャガチャと回したりボタンを押したりする。

「…………ぶはっ!」

背後で画面を眺めていた店員さんは、秒殺された私に噴出していた。

「あはは。あんたヘタすぎ」
「は、初めてだからしょうがないじゃん。みてなさいよ、今度こそ」

再びコインを投入して、私は挑んだ。





Θ コインの関係 Θ





人間には向き不向きがあるんだと改めて思い知った。 三回チャレンジして、三回とも秒殺。

「あーぁ。しょうがねぇな、ちょっともう一回やってみな」
「う…うん」

言われるままにコインを入れると、店員さんは私の背後に立つ。< そして、私の手をスティックの下に入れ、自分の指を重ねる。

「左手は、下からスティックを支えるようにして、そう。中指と薬指で挟む感じ」
「こ…こう?」
「そ。んで、右手は常にボタンの上において」
「う…うん」

私の指と店員さんの指が重なったまま、バトルがスタートした。

「うわっ」
「落ち着けっての。まずはこーして、敵の攻撃をガードして」

店員さんも画面を覗き込んでいるため、私の顔の真横に彼の顔がある。

「相手の攻撃がやんだら、すかさず攻撃する」
「あ、当たった」

今までまったく攻撃を繰り出さなかった私のキャラは、軽やかにコンボ技を繰り出すと敵を瞬殺した。

「やった。勝った! すごい、きゃーっ」
「な。簡単だろ?」

感激して喜ぶ私と店員さんの顔がぶつかりそうになって、お互い気まずい空気が流れる。


「オ、オレもう行くわ。あんま話てっと店長に怒られっかもしんねーし」
「う、うん」

その空気を破ったのは店員さんの方で

「またやってみてーゲームあったらいつでも言えよな。オレが教えてやんし」
「ゲームセンターのアルバイトってそんなことまでするんだ。大変だね」

素直に感心すると彼は眉を寄せて

「は? それ、本気で言ってんの? ま、別にいいけど」

ちょっとむくれたように店の奥に引っ込んでしまった。


「だ…だって、都合のいいように解釈して違ったら嫌だもん」


店員さんのいなくなったゲームセンターで私は呟く。 触れた指の熱がまだ残っているようで、ギュッと指を抱きしめるとなんだか落ち着かない気分になる。

「……嫌…だもん……」

再び呟いてみたものの、もはや自分が都合の良いように解釈し始めていることに気づいてしまった。




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スチルに一目ぼれ。トラが好きです。