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【サンプル(小説)】


　校門の前でわたしは一人先輩を待っていた。いつもは斗々丸や金春くんも一緒なのだけれど、斗々丸は掃除当番、金春くんは補習があるということで今日はわたしだけ。少し前なら何の問題もなかったのだけれど、今は問題だらけだ。先輩にわたしの正体がバレていて、更にいうとわたしと先輩は彼氏彼女の関係だからだ。

先輩と話したいことはたくさんある。けれど、変なことを口走って嫌われてしまったらと思うと言葉がうまく出てこない。
「(それに……今はこんな格好だし)」
　ひかるの恰好をしているせいもあって、ひなことしての言葉が出てこないのだ。
「(手とか繋いだら……変、だろうし)」
　せっかく二人きりの下校だというのに、周りの目を気にしてしまって一歩が出せない。
「えーと、先輩」
　それでも会話がしたくてなんとなく口を開く。
「？」
　声をかけたものの次の言葉が浮かばないわたしに先輩は黙って首を傾げる。何か聞き辛いことでもあるのかと、そんなふうに瞳が問いかける。
「(ああ、全然違うんです)」
　そう心の中で謝罪して、ようやく一つの話題が浮かんで口を開いた。
「来週、雨が降るみたいですよ」
　だからなんだと言われたらそれきり、「お見合いじゃないんだから！」と、ひかるがいたら突っ込んできそうなありきたりな天気の話を振ってみる。



「ねー」
　スタスタと歩くわたしの背後から先輩が声をかける。けれど、わたしは無言で歩みを止めない。
「ねー、ねーってば」
　ぐいと腕を掴まれてようやく足を止めれば
「これじゃ一緒に帰るって言わないよね」
　苦笑した先輩がいた。
「……その、二人きりとかデートとか言われても今はこんな格好なので困るんです」
　ひかるとして登校しているため、どこからどうみても今のわたしは男子校生だ。そんな恰好の時にデートとか言われてもどう返したらいいのか困ってしまう。
「ごめんごめん、困らせるつもりじゃなかったんだ」
　先輩はそう言ってもう一度ごめんと口にした。
「二人きりで帰れることなんて滅多になかったからちょっと浮かれちゃって」
「浮かれてたんですか？」
　全然そんな様子もなかったと驚けば
「だから、手ぐらい繋いでもいいよね」
　慣れたようにわたしの手を握り、先輩はずんずんと歩きだしてしまった。



「あれって、麟太郎じゃない？」
仲良く二人で傘に入っていると、前方を指さしながら未良子先輩が告げた。確かにあの後ろ姿は吉良先輩だ。
「おーい、麟太郎」
未良子先輩が声をかけると前を歩いていた吉良先輩が
「なんだ」
少し迷惑そうに振り返り、驚いたように固まった。もちろん、わたしたちの姿を見てだ。
「羨ましいだろう」
そう言って、見せつけるように傘の中でわたしとの距離を縮める未良子先輩。
「…………」
暫くその姿を眺めていた吉良先輩は、つかつかとわたしたちの方へと歩みよるとおもむろに自分の傘を閉じた。そして、
「!?」
驚くわたしを尻目に、傘の中へと入ってきた。いくらわたしには大きい傘でも三人で入るには狭すぎる。濡れないようにするには密集するしかなくて、再び夢の内容を思い出してしまう。
「ちょっと、何考えてるの麟太郎」
　珍しく未良子先輩が正論を口にした。

【サンプル(小説)】


「だ、大丈夫だから、からかわれただけだし」
　そう言って斗々丸の手をぎゅっと握りしめる。
「蛇男くんを殴るんじゃなくて、この手はわたしと繋いでくれると嬉しいな……なんて」
　恋人らしいことをしなれていないせいもあって、自分の行動に照れながらそんな言葉を告げると
「お、おうよ」
　同じく恋とは縁遠かった斗々丸も真っ赤な顔で頷いた。
「こんな手で良けりゃ、いつでも繋いでやらあ」
　バッバッと制服のズボンで手を拭うと斗々丸は手を差し出した。彼の手はわたしより大きくてポカポカしているからすごく安心感があった。このままずっと繋いでいたいなと思っていたら
「オマエの手ってすっげぇあったかいから、ずっと繋いでいたくなるな」
　なんて斗々丸が言うので思わず笑ってしまった。
「あ？　何笑ってんだよ。変な事言ったか？」
　クスクスと笑うわたしを不思議そうに見つめながら斗々丸が訊ねるので
「ううん。ちょうど今、斗々丸とまったく同じこと考えてたから嬉しくて」
　そう答える。きっとわたしと斗々丸は似た者同士なのだろう。そんな小さな共通点が嬉しくて、胸までポカポカしてきた。
「二人とも同じこと考えてるって、なんかいいよね」
　そう続けると
「オ、オマエ、そんな可愛いこと急に言うなよ」
　斗々丸は繋いだ手をぶんぶんと振り回しながら歩きだした。きっと恥ずかしさに動揺しているのだろう。



「つーか、逆にオレはお前のタイプが知りたいんだけど」
　唐突に斗々丸はそんな事を告げた。
「え？」
「オレのタイプはあの時答えたけど、オマエの答えは聞いてない」
「言わなかったっけ？」
　斗々丸に聞き返されてわたしも答えたような気がするのだけれど……。
「あんときは男だって思ってたから好きな女のタイプを聞いただろ？　じゃなくて、オレはオマエの好きな男のタイプが聞きたいの」
　確かにあの時聞かれたのは好きな女のタイプについてだった。女のわたしになんて質問をするんだろうと思ったけれど、あのときの斗々丸はわたしを男だと思っていたのだから仕方ない。答えにだいぶ困ったけれど友達が出来たのも初めてだったわたしは、「まだよくわからない」と答えた。そういうのは色んな人と付き合っていく中で見つけて行くもだと思っていたからだ。
「そ、それを今のわたしに聞くのはずるいと思う」
　現に今、目の前にいる斗々丸が彼氏なのだ。好きな男のタイプなんて聞かなくても分かっているだろう。
「ずるくて結構。オレの好きな女を散々可愛くないって言った仕返しだ」
　悪戯っぽく笑う斗々丸に、
「わたしの好きなタイプは、可愛い彼女に意地悪な質問をするちょっとずるい人だよ」
　可愛い彼女と自分で言うのはちょっと照れたけれど、仕返しとばかりにそう答えると
「やっぱオマエ、可愛いな」
　面と向かってまじまじとそう告げる斗々丸にはきっと深い意味なんてないのだろう。けれど、このタイミングでそんな言葉を告げられると思っていなかったわたしには効果抜群で、真っ赤な顔で口をパクパクさせるだけで精一杯だった。

• 2017年
  08.20　　「Butterfly」　(番乙/未良子×ひなこ)
  05.03　　「プリメイロアモール」　(番乙/未良子×ひなこ)
  02.19　　「ラベンダー・シュガー」　(番乙/未良子×ひなこ)
  

• 2016年
  11.03　　「ハピネス」　(番乙/吉良×ひなこ)
  08.21　　「UNBIRTHDAY」　(番乙/吉良×ひなこ)
  05.04　　「猫と呼ぶ幸せと」　(剣が君/黒羽×香夜)
  01.10　　「フユウタ」　(剣が君/左京×香夜)
  

• 2015年
  10.04　　「言葉だけじゃ足りなくて」　(剣が君/螢×香夜)
  05.03　　「恋文日和」　(剣が君/左京×香夜)
  05.03　　「花蛍」　(剣が君/螢×香夜//まゆさんとの合同誌)
  01.11　　「福音」　(剣が君/黒羽×香夜)
  01.11　　「好きじゃない、大好き」　(剣が君/左京×香夜)
  

• 2014年
  10.13　　「今は気づかないフリをして」　(あやかしごはん/謡×凛・詠×凛)
  10.12　　「幸せな物語は終わらない」　(剣が君/螢×香夜)
  08.24　　「恋蛍」　(剣が君/螢×香夜//まゆさんとの合同誌)
  08.24　　「苦手を克服する方法」　(剣が君/左京×香夜)
  05.03　　「恋色の花につつまれて」　(剣が君/九十九丸×香夜)
  01.12　　「ショコラ」　(アムネ/オール)
  

• 2013年
  10.14　　「Girl's Talk」　(アムネ/店長×ミネ/モブ×リカ/モブ×サワ？/オリオン×主人公)
  09.15　　「LOVER」　(アムネ/ウキョウ×主人公//暁葉さんとの合同誌)
  08.25　　「1/3　さんぶんのいち」　(アムネ/シン×主人公・トーマ×主人公・シン×主人公×トーマ)
  06.16　　「プリズム」　(アムネ/オール)
  05.12　　「Dear Pink」　(アムネ/ケント×主人公)
  05.04　　「恋するロリポップ」　(アムネ/オール//こずさんとの合同誌)
  02.11　　「純愛♥十字砲火」　(十三支/夏侯惇×関羽/夏侯淵×関羽/曹操×関羽)
  01.06　　「ライアーゲーム」　(アムネ/ウキョウ×主人公)
  

• 2012年
  10.07　　「ドラマチックレイン」　(十三支/オール)
  10.07　　「B'coz I Love You」　(アムネ/ケント×主人公)
  09.16　　「君の存在こそ俺が世界に愛されている証拠のひとつ」　(アムネ/ウキョウ×主人公)
  08.19　　「恋を煩う私たち」　(アムネ/オール)
  06.24　　「たとえばこんな未来」　(CZ/有心会本//ハルさんとの合同誌)
  05.04　　「いつまで経ってもかわらずにスキ」　(神なる君と//ハルさんとの合同誌)
  02.11　　「ピンクダイヤモンド」　(うたプリ/翔×春歌)
  

• 2011年
  12.18　　「angle song」　(うたプリ/Ｓクラス//クリスマス本//ハルさんとの合同誌)
  10.26　　「しあわせは手のなかに」　(AMNESIA/オール)
  10.10　　「Little Star」　(うたプリ/Ｓクラス//ハルさんとの合同誌)
  10.10　　「キラキラシュガー」　(猛獣/ルシア×ティアナ,シルビオ×ティアナ(+ゲルダ&最後の魔女)//ちかさんとの合同誌)
  06.26　　「WONDER! WONDER!」　(CZ/政府組×撫子//グリコさんとの合同誌)
  06.26　　「春夏秋冬」　(薄桜鬼/原田×千鶴//アンソロ・ゲスト等の寄稿寄せ集め本)
  05.03　　「嘘つきのパレード」　(CZ/レイン×撫子//レイン誕生祝い本//ハルさんとの合同誌)
  05.03　　「色づいた世界とぼく」　(CZ/政府組×撫子//バレンタイン&ホワイトデー)
  02.06　　｢ピンクレモネード｣　(恋戦記/仲謀×花//特典CD「婚儀が終わったらヤルぞ」発言から発生本)
  02.06　　｢甘いだけじゃ物足りない!!｣　(恋戦記/仲謀×花//バレンタイン本)
  02.06　　｢隠された物語に言葉は要らない｣　(恋戦記/仲謀×花//ヤキモチ本)
  01.09　　「Valentine」　(CZ/課題メンバー×撫子//バレンタイン本)
  01.09　　ハッピーエンドなんかいらない!　(遙か5/天海×神子×撫子//エイプリールフール企画に便乗して)
  

• 2010年
  09.26　　｢愛情レベルマックス｣　(S.Y.K/真君×玄奘-RI.NE発行)
  09.26　　「雨恋」　　　(薄桜鬼/平助×千鶴//相合傘ネタで甘酸っぱい感じの学パロ)
  06.20　　「ちいさな恋のそのつづき」　(薄桜鬼/永倉×千鶴//花火模造ストーリー)
  06.06　　｢ロマンスの仙人｣　(S.Y.K/真君・大聖・観音-RI.NE発行)
  06.06　　「秘め熱」　(薄桜鬼/土方×千鶴-RI.NE発行)
  05.02　　「相合愛傘」　(薄桜鬼/永倉×千鶴/合同誌-ais発行)
  02.07　　「酔」　(薄桜鬼/永倉×千鶴/原田×千鶴//お酒の話)
  01.10　　「trio2」　(薄桜鬼/三馬鹿//風邪の話)
  

• 2009年
  11.01　　「KATAKOI LOGIC」　(薄桜鬼/斎藤×千鶴//特典CDネタでR18)
  10.12　　「もしものうた」　(薄桜鬼/永倉×千鶴//もしものストーリー。座談会ネタ)
  08.23　　「pretty face」　(薄桜鬼/平助×千鶴/合同誌-RI.NE&EX発行)
  08.23　　「キラキラデイズ」　(薄桜鬼/永倉×千鶴//お月様の話)
  06.14　　「涙の種、笑顔の花」　(薄桜鬼/永倉×千鶴//新八を好きだと自覚する話)
  06.14　　「恋衣」　(薄桜鬼/土方×千鶴-RI.NE発行)
  06.14　　「sweet romantic」　(vitamin/清春×悠里)
  03.15　　「夢の終わりとその後に」　(vitamin/瞬×悠里//卒業式のあとで)
  03.15　　「STILL ROSE」　(vitamin/ビタミン/シュンユリ/合同誌-RI.NE&EX発行)
  03.15　　「trio」　(薄桜鬼/三馬鹿//お土産話)
  03.15　　「幸せさがし」　(薄桜鬼/永倉×千鶴//四葉のクローバー)
  03.15　　「全力少年」　(薄桜鬼/平助×千鶴//学パロで青春)
  

• 2008年
  11.03　　「today's special cake」　(vitamin/ビタミン/シュンユリ/合同誌-RI.NE&EX発行)
  11.03　　「王子は知らずに夢を見る」　(恋華/陸奥×倫・富山×倫)
  08.24　　「Ribbon casket」　(遙か4/那岐×千尋-RI.NE発行)
  06.22　　「そんなキミが好きだから」　(vitamin/瞬×悠里//瞬に告白されて意識してしまう話)
  06.22　　「summer memory」　(プリナイ/真治×リトル・チェシャ×リトル)
  03.30　　「FIVE!!」　(vitamin/瞬×悠里とみせかけたヴィスコ本/ゲスト様多数-RI.NE発行)
  03.30　　「Gioco di amore」　(vitamin/清春×悠里//マリ○カートの話)
  03.30　　「birichinata」　(vitamin/清春×悠里//蚊に刺された話R18)
  

• 2007年
  11.22　　「Pinkie Syrup Kiss!」　(vitamin/瞬×悠里-RI.NE発行)